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お祭り 大っ嫌い

お祭り 大っ嫌い  (2015.5)

いなか もん

ボクはゆうすけ、小学二年生。秋のお祭りが近づいてくるといやになる。なぜって?それは子ども相撲があるからさ。
去年の村のお祭りは絶対思い出したくない。だって、去年のお祭りの相撲大会で、ボクはクラスの女の子、タエちゃんに振り回されて土俵の下まで投げ飛ばされたからだ。
タエちゃんは、ボクより背も高く、太っている。相撲になると、タエちゃんだけは女の子だと思わない方がよい。タエちゃんに勝てるのは、ボクのクラスではごうた君のほか、二、三人しかいない。

お祭りの次の日、学校へ行ったら、みんなに笑われた。
「やーい、よわむし!男の子のくせに、女の子に投 げ飛ばされるなんて」
クラスのみんなが、ボクのことを弱虫だと思っているに違いない。黙っている子も、ボクを見て笑っているように思える。
「気にしなくていいわよ。女の子だって強い子はいる んだから」
ママが慰めてくれたけど、ボクはかなしくなった。そのお祭りが今年もやって来るのだ。
みんながお小遣いをくれるだろうが、うれしくない。それよりも、お祭りがこない方がずっといいと思う。子ども相撲さえなかったらそうは思わないのに。

「ゆうちゃん、今年も相撲大会があるね。」
「しんちゃんは、子ども相撲、好きなの?」
「ボクはまあまあ好きだ。でも、ごうた君にはかな わないけどね」
「いいなあ、しんちゃんは強いから……」
近所のしんちゃんといっしょに学校から帰るとき、この頃は子ども相撲の話になる。そのたびに、いやなことが思い出される。

「ただいま」
「お帰り、ゆうちゃん。なんだか元気がないわね。 学校で何かあったの?」
「べつに……」
「まさか、去年の子ども相撲のことを気にしている んじゃないわね」
「……」
ママにはウソはつけない。いつもはおいしいおやつも今日はあまり食べたくない。

「そうだ!相撲のことなら勝山のゲンじいち ゃんに聞いたらいいかもしれないわよ。じい ちゃんは、相撲が大好きだし、いろいろ教 えてくれるかも知れないよ。今度の土曜日、 勝山へ行こう、行こう」
ママは、言ってくれたけど、今は相撲のことは思い出したくない。そんな気分だ。

「なるほど、そういうことか。一番勝ちたい のは、そのタエちゃんとかいう女の子なん だな。それなら、爺ちゃんが作戦を立てて やろう。」
勝山のゲンじいちゃんは張り切っている。最初に、構え方、攻め方など相撲の基本を教えてくれた。そして、最後にタエちゃんに対する作戦を考えてくれた。本当のことを言うとボクは相撲のことは思い出したくないんだ。
「これで、タエちゃんとやらにはなんとかな るはずだ。ところで、ゆうすけ。お前のク ラスで一番強いのは誰だ。できたらその子 に勝つ方が大事ではないのか?」
「えっ?まさか、ボクがごうた君に勝つなん て考えられない!」
「はじめからおじけついていては、タエちゃん とやらにも勝てないぞ。」
それもそうだと思うが、ごうた君に勝つなんて考えられない。勝つことよりも怪我をしなければと思っているだけなんだから。
ゲンじいちゃんは、ボク以上に燃えている。
「そうだ、ゆうすけ!座敷で相撲の練習をし よう!」
じいちゃんは、敷きふとんを二枚並べて敷いた。ゲンじいちゃんは、七〇歳を超えている。シャツと股(もも)引(ひき)になってその上から帯でふんどしを締めている。爺ちゃんは、ごうた君に対する作戦をあれこれ説明してくれた。

「じいちゃんを、そのごうた君だと思って、 教えたとおりに思いっきりやって見ろ!さ  あ、こい!手加減はせんぞ!」
まさか、じいちゃんと相撲をとるとは思わなかった。
バリ、バリーッと大きな音がした。座敷の襖(ふすま)が爺ちゃんの足で破れてしまったのだ。
「やったー!決まった!」
大きな音に驚いたのか、ママと春ばあちゃんが飛んできた。
「何してるの?あなたー!」
ばあちゃんは破れた襖を見て怒っている。「まあまあ。それよりワシはゆうすけに作戦 を授けたぞ。」
「もう、じいちゃんたら!子どもと本気で相 撲を取るんだから。でも、よかったわね、 ゆうちゃん。」
明くる日、僕は、春ばあちゃんからお祭りのお小遣いをもらって、じいちゃんちを後にした。祭りは、次の日曜日だ。

「にしー、ゆうすけやーまー、ゆうすけやーまー。 ひがしー、たえのかわー、たえのかわー。」
二回戦は、タエちゃんとの相撲だ。去年のことが頭から離れない。じいちゃんの作戦どうりにうまくいくのか、少し心配だ。ボク達はにらみ合った。行事をしている子供会の会長さんの白い手袋をした右手が上がった。
「残った、残った」
ボクは、じいちゃんの言ったとおりに、タエちゃんの腰に食らいついた。タエちゃんは去年のように振り回すことができないと思ったのか、力まかせに押してきた。ボクの足が土俵の俵にかかった。今だと横へ回って、タエちゃんを振り回した。
タエちゃんと一緒にぼく達は土俵の下へころげ落ちた。
「勝負あり!」
会長さんの手がボクの方を指した。
「ゆうすけ、よくやった」
ゲンじいちゃんの声だ。ボクは夢中で、どんな相撲を取ったのか覚えていなかったが、勝ったのは間違いないようだ。
「ゆうすけ、喜んでいる場合ではないぞ、準決勝は、ゴウタくんだ。今度は手強いぞ」

軍配が返った。ボクは爺ちゃんの言ったとおり低い姿勢で豪太君のお腹(なか)の下に入ってゴウタ君のふんどしに手を掛けた。
ごうた君は重い。のしかかってきた。つぶれてしまいそうで息苦しい。
「ゆうすけ!がんばれー!」
パパの大声が会場に響く。今は恥ずかしがっている場合ではない。ごうた君は押しつぶさんばかりにボクを押さえつけて押してきた。
じいちゃんの言ったとおりだ。ボクはじいちゃんに教わったとおりに、ありったけの力を振り絞ってわざと後ろへひっくり返った。二人とも土俵の下へ落ちた。ボクの頭の下にゴウタ君のからだがあった。もしかしたら、と思ったが、ボクがごうた君に勝つはずがない。
行司の会長さんは、どちらが勝ったのか分からないらしく、きょろきょろして土俵の下を見ている。取り直しだという人もいるようだ。ごうた君と二回も相撲を取るのは絶対にいやだ。
そのとき、誰かがボクが勝ったと合図したので、会長さんの右手はボクの方を指した。
えっ、ボクがごうた君に……と思ったそのとき、俵の下から誰かが大声で叫んだ。
「行司、間違ってるぞー!ごうたがわの勝ちやー!」
ゲンじいちゃんの声だ。じいちゃんは土俵の下から会長さんに向かって文句を言っている。見ていた人たちは、びっくりしているようだ。
「残念ながら、ウチの孫のゆうすけの尻が先に地面に着いていた。ごうた君の手はその後に着いた。ワシの目の前で勝負がついたので間違いない」
審判でもないのに、ゲンじいちゃんは大声で会長さんに向かって説明している。土俵の上で大人達が相談を始めた。結局、ごうた君の勝ちになってしまった。
「惜しかったなあ、ゆうすけ。パパはてっきり ゆうすけが勝ったかと思ったよ。」
「ママも、ユーちゃん、やったーと思ったよ。」
二人はガッカリしているようだった。
「ゆうすけ、よくやったー!いい相撲やった」じいやんは、頭をなでてくれた。ボクはじいちゃんにほめられたことが一番うれしかった。でも、急にお腹が空いてきた。
もう相撲のことは忘れて、ばあちゃん達からもらったお小遣いを使うぞ。ボクは、焼き鳥と水飴とジュースを買った。やっと、祭りの屋台を見て歩くことができた。
「惜しかったなあ、ゆうちゃん。ボクは簡単 にごうた君に負けたけど、ゆうちゃんはい い勝負してたよ。」
二位になったしんちゃんが慰めてくれたけど、もうどうでもいい。
じいちゃんが、お腹がいっぱいのボクにたくさんのたこ焼きを買ってくれた。
「じいちゃん、ありがとう。もしかしたら、ボク、相撲が好きになるかも知れないよ」
じいちゃんは、とてもうれしそうだった。
「ワシに勝ったら、たこ焼き一年分、買って やるぞー、どうや、ゆうすけ。」
少しお酒によっているじいちゃんと、たこ焼きを食べながら、お腹いっぱいになって家へ戻った。今日は、日記に書くことが一杯できたお祭りになった。               (おしまい)

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